Interview Vol.5 宗安寺きのこセンター 森雄司 | Yuji Mori

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地縁が導いた、キノコ栽培への道

高知市の中心地まで車で約20分。喧騒から遠ざかった中山間地域の鏡川のほとりに「宗安寺きのこセンター」があります。創業は1982年。当時はまだ栽培技術が確立されていなかったシイタケの菌床栽培に興味をもった大坪久仁子さんが、研究を重ね、独自の技術を習得したことに始まります。「日曜市」で、菌床ごとキノコを売る珍しさが注目を浴びたり、味や風味が格段に違うという「朝採れキノコ」が話題になったりと、事業は順調に拡大。しかし2014年の豪雨でセンターは浸水被害に合い、その後なんとか生産を再開するも、70歳を超えた大坪さん自身のモチベーションが限界に近づいていました。

「だれか後継者がいれば」

不動産会社で働く森雄司さんの元に、そんな声が聞こえてきたのは2017年の春のこと。 

「聞いてすぐは興味なかったんですが、どこでやっているのか気になって。で、訪ねてみたら、なんとうちのすぐ近く。えっ、こんなところで!と驚きました。実は、実家は、元い草農家で、乾燥機や出荷作業に使えそうな倉庫もあるから、引き継ぐ土台が整っているなって。この時に縁のようなものを感じたんです」

その時、森さんは52歳。定年まであと何年というところでしたが、決断に迷いはありませんでした。

「人生は、定年してからも長いじゃないですか。勤めあげるのもあと約10年。施設を受け継いで事業が軌道に乗るのにも10年くらいかかる。同じ10年なら、体力や気力のあるうちに、おもしろいことを始めようと思って」

こうして新しい道を歩み始めた森さんですが、キノコ栽培に関する知識はゼロ。大坪さんに指導を仰ぎながら、菌床栽培スタートさせました。

高知産のオガクズときれいな水、

太陽の輻射光で育つ、

生命力たっぷりのキノコ

菌床栽培とは、広葉樹のオガクズに米ぬかやフスマ(麦のぬか)と水を加えたブロックに菌を植え付け、室内でキノコを栽培する方法。まず、培養基であるブロックを袋詰めして100度の釜で10時間常圧殺菌。それを冷やした後に菌を接種し、20度の培養室で菌床を育て、菌床全体に菌糸が蔓延したら、袋に切り込みを入れてキノコを発生させます。

「これはナメコ、これはヒラタケ、これがシイタケです。違いがわからないと思いますけど(笑)。いずれにしても、菌糸は、最初白くなるんです。その状態から菌がぐるっとまわって、このゴツゴツした感じを“一時蔓延”っていって、全体に菌糸がまわった状態です。で、しいたけの場合、こういう風に茶色く色がつくんですが、これを“褐変”といいます。食パンをトーストで焼いたら茶色くなるの同じ作用ですね。ナメコは黄色くなり、キクラゲは紫色がぽつぽつ混じるようになります」

ちなみに菌の植え付けから、蔓延して白くなるまでにだいたい1ヶ月。ここから褐変して2ヶ月。その後、熟成してキノコが発生するようになるまでには3、4ヶ月かかり、この間は培養室で育てます。 

「大事なのは温度の管理。菌自体が熱をもっているので、熱がこもらないように、風通しよくして、室内の温度を20度に保っています。キノコの発生には積算温度が温度が関係していて、うちで使っているシイタケ菌は2000度前後です。なので20度で100日。ただ、これをきっちり守っても、袋を開けたときにキノコがちゃんと生えるかっていうと、そうとも限らないのです」

 
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緻密な分析と徹底した管理。そこに人知を超える何かが加わって、ようやく姿を見せるキノコの赤ちゃん。小さくとも生命力の塊なんだと実感させられます。そしてここからは、発育させるためにそれぞれ別の部屋へ。というのもキノコの発育は種類によって適温と適湿が違い、シイタケだと温度は20度で湿度は60%、キクラゲだと温度は25度で湿度は90%なのだとか。 

「菌床からバーっと生えたものを最後の1本まで取ったら、一度休憩させるんです。そのあと水につけて、また収穫してというのを、ひとつの菌床につき5回繰り返します。この間、だいたい28日。水につけるのは、ショックを与えるためで、雷がなったあとなんかも、一斉に生えるんですよ。なんだかそういう波動みたいなのを感じるんでしょうね。基本は人間がコントロールして生やしているんですけど、根本のところは生命力が関係している。あと、うちの場合は、太陽の輻射光を利用しているんで、これがおいしさに繋がっています。電気で紫外線をあてるやり方もありますが、完全にオートメーション化していしまうと、味や風味に特徴がなくなるんです。量産を考えるとそのバランスが難しいところなんですが、天日のすばらしさは言うまでもないことなので」

自然栽培で無農薬となれば、当然、虫たちにとってもおご馳走。キノコバエを追い払うために、お湯をかけたり、ナメクジに食べられていないかをチェックしたりと、相手が生き物だから休む暇なしですが、それでも、「サラリーマン時代と比べて健康になった」と語る、森さんのハツラツとした笑顔が、充実した日々を物語っています。

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栄養価満点。おいしさ満点。

「国産キクラゲを食卓へ届けたい」

現在「宗安寺きのこセンター」では、年間、2万5000個の菌床キノコを栽培していますが、その多くはシイタケが占めます。インタビューに伺った秋のはじめの時期は、鍋のシーズンに向けて、ヒラタケやナメコなどとともに培養量を増やしている真っ只中でした。一方、発育するのに高温多湿の状態を要するキクラゲは、11月くらいまでが栽培の時期。ですが、このキクラゲ。実はファンが多く、年間を通して栽培できるよう、目下検討中なのだそう。

「一般的にキクラゲは中華料理に使われる具材としてのイメージが強いと思いますが、中国では、薬膳に使われるくらい栄養価が高いキノコなんです。日本でも、体の調子を整える機能があることが認められていて「機能性食品」の表示で扱われています。鉄分と食物繊維が豊富で、特にビタミンDの含有率にかけては目を見張るものがあります。通常、紫外線に浴びないとビタミンDは生成されませんが、キクラゲは食べるだけでビタミンDを体内にとり入れられ、また、最近の研究ではビタミンDには、肝臓がん、肺がん、乳がん、前立腺がんなど、さまざまながんに対する予防効果があることもわかってきたそうです。キノコ類はすべて、免疫力を高める効果がありますが、栄養価の高いキクラゲは特におすすめですね」 

事業継承してちょうど一年。森さんは常に前を見ています。「そうとう濃い一年でした。菌床がカビに負けてしまったり、キノコがうまく育たなかったり。そのたびに何でやろうって考えながら。失敗というのは、この期間にかかった、原料や経費などの費用がすべてとんでしまうので、ゼロではなくてマイナスなんですね。でも、やってみないとわからないし、おかげで今後の課題や自分の中での答えが見つかったんで、来年はもうちょっとできるかなと思っています」市場では、海外産の乾燥品が圧倒的な割合を占めていて、国内産の生キクラゲはまだまだ貴重な存在。先代の大坪さんが、菌床栽培の道を切り開いたように、そのバトンを受け取った森さんの手から育った生キクラゲが、日本に旋風を巻き起こすのも、そう遠くない現実のようです。

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取材・文/多田千里 写真/永田智恵